ベックウィズ-ヴィーデマン症候群

1. 概要
ベックウィズ-ヴィーデマン症候群は、臍帯ヘルニア(Exomphalos), 巨舌(Macroglossia), 巨体 (Giantism)を三主徴とする先天異常症候群である。症状の頭文字を合わせてEMG 症候群ともいわれる。 約15%の症例でWilms 腫瘍、肝芽種、横紋筋肉腫など胎児性腫瘍が発生する。Sotos 症候群等の過成長 を呈する疾患との鑑別が必要。
2. 疫学
H21 年度調査によると全国で少なくとも218 例
3. 原因
ベックウィズ-ヴィーデマン症候群の大部分は孤発例であり、家族例は15%である。ベックウィズ-ヴィーデマン症候群の原因遺伝子座は11番染色体短腕15.5 領域(11p15.5)で、この領域には多くの刷り込み遺伝子がクラスターを形成して存在する。ベックウィズ-ヴィーデマン症候群の原因の約2/3 は、11p15.5 の刷り込み異常によって生じる。11p15.5 には、2 つの刷り込みドメイン、KIP2/LIT1 ドメインとIGF2/H19 ドメイン、があり、それぞれ刷り込み調節領域により周辺の刷り込み遺伝子の発現が制御されている。ベックウィズ-ヴィーデマン症候群の約30-50%はKIP2/LIT1 ドメインのDNA 低メチル化によりKIP2 (CDKN1C)の発現が低下し、約5-10%ではIGF2/H19 ドメインのDNA 高メチル化によりIGF2 の発現が上昇していることがわかっているが、これらのメチル化異常が生じる原因は未解明のままである。約17%に父性ダイソミー(patUPD11)モザイク、5-7%でKIP2 の遺伝子変異、10%で染色体構造異常が認められる。約1/3 ではこれらの異常は認められない。
4. 症状
臍帯ヘルニア(Exomphalos), 巨舌(Macroglossia), 巨体(Giantism)を三主徴である。臍帯ヘルニアについては、肝臓・腎臓・脾臓・膵臓など臓器の肥大が見られるため、腹腔内に臓器がおさまり切れず、圧出された腸がへその緒に突出し、臍帯ヘルニアとなる。新生児期以降も鼠径ヘルニア、臍ヘルニア、腹直筋離開などで手術を要することがある。巨舌については、口腔内に収まり切れない巨舌を放置した場合、ほ乳障害を、長期的には咬合障害・下顎前突を生じる。このような障害が合併する場合には、舌縮小術(舌部分切除術)を要する。巨体については、胎生期から過成長を示し、胎盤重量増加・羊水過多・臍帯過長が見られる。
5. 合併症
三主徴の他に、新生児期の低血糖、耳垂の線状溝、内臓腫大、片側肥大などを伴う。男性では不妊になることがある。また、約15%の患児にWilms 腫瘍、肝芽種、横紋筋肉腫など胎児性腫瘍が発生する。
6. 治療法
臍帯ヘルニア、巨舌については、必要に応じてヘルニア根治術や舌縮小術などの外科的手術を行う。低血糖については、50mg/dl 以下にならないように6 時間毎にモニタリングし、グルコースを補充する。 脳障害を生じると長期的加療が必要となる。 胎児性腫瘍については、定期的に超音波、CT、MRI 等によるスクリーニングが必要。腫瘍が生じた場合は、化学療法および外科的切除をおこなう。 半身肥大の場合は、脚長の左右差が生じるため脚延長術を施行することもある。
7. 研究班
先天性異常の疾患群の診療指針と治療法開発をめざした情報・検体共有のフレームワークの確立