CHARGE症候群の健康管理ガイドライン

はじめに:CHARGE 症候群の概要

 CHARGE 症候群(チャージ症候群:CS)は遺伝子変異により成長発達の遅れ、視聴覚障害、多系統の内臓疾患を伴う先天異常症候群です。胎児の体を作っていく発生過程で必要なある遺伝子(CHD7)の機能不足が原因です。症候群とは多彩な症状を共通で持ち、疾患単位として認められたものです。CSは次にあげるような特徴的な主要症状をもち、頭文字(CHARGE)をとって病名がつけられました。

•C: coloboma of the eye 眼のコロボーマ(眼の構造の部分欠損)

•H: heart defect 先天性心疾患

•A: atresia of the choanae 後鼻孔閉鎖

•R: retardation of growth and/or development 成長や発達の遅れ

•G: genital and urinary abnormalities 外性器や尿路系の異常

•E: ear malformation and/or hearing loss 耳の形態異常や聴力障害

 5個の主要症状をすべて持つ場合もあれば、部分的にしか認めない場合もあります。他に大きな合併症を持つ場合もあります。また気づかない程度の軽症から重症まで程度も様々です。可能性のある合併症に対して詳細な検査を行い、治療方針、療育方針を決定します。この冊子ではCSを持つ小児の健康管理に役立つように、必要な情報をまとめました。まだこれで完成したものではありません。皆さんのご意見や新しい医学的知識を取りいれて改定していく予定です。

 

(1) 疾患の歴史

 CSについて最初の症例報告は、1979年のHallによるものですが、1950年代から後鼻孔の閉鎖と先天性心疾患を伴う症例は報告されていました。1981年にPagonが21例を「CHARGE連合」として報告し、臨床的な診断基準を作りました。現在までに数百例が報告されています。「CHARGE」の主要症候以外にも食道閉鎖、顔面神経麻痺、腎奇形、口唇口蓋裂などがみられることがあります。2004年にVissersらによって原因となる遺伝子(8番染色体上のCHD7遺伝子)が発見されて、「CHARGE症候群」と呼ばれるようになりました。多数例における臨床的な分析もすすんでいます。日本では厚生労働省難治性疾患克服研究事業が始まっています。

(2)基本的病態

人の身体は胎内にいる10ヶ月の間につくられ、およそ3000gの新生児に成長し誕生してきますが、最初はたった一つの小さな受精卵です。人間の遺伝子が23000ほどあり、体を作る設計図となります。遺伝子が次々と協力して働くことで、細胞分裂を繰り返しながら、手足や臓器ができあがっていきます。胎児は「エラ」や「しっぽ」のような構造を持つ時期があり、この時期に眼や耳、心臓などの器官が形成されます。その時に働く遺伝子の一つがCHD7です。器官作りに働く遺伝子の調整役(他の遺伝子が働くようにスイッチをオン/オフさせる)をするので、多くの器官の形成に影響を与えます。CHD7遺伝子に変化があることで胎児期の器官形成が十分にできないわけです。遺伝子の変異の型と臨床症状に明確な関連はありません。遺伝子診断が多く実施され、多数例における臨床的な分析もすすんでいます。ただし、CHD7遺伝子に変異を認める例は70%程度です。CHD7以外の責任遺伝子の関与も示唆されています。通常、染色体検査に異常はありませんが、22q11.2欠失症候群でCSに似た症状がみられることがあります。

 遺伝子は身体をつくる設計図として23対(46本)の染色体の中にコンパクトに納められ、精子と卵子を通じて次の世代に伝えられます。染色体は顕微鏡でないと見えない小さな物質で細胞の核の中にあります。細胞が分裂する時に染色体も倍になりそれぞれの細胞に入るので、身体すべての細胞に同じ遺伝情報が入っています。また精子や卵子の染色体は23本ずつで、受精して46本になります。遺伝子や染色体の変化は細胞分裂の時よく起こり、人は誰でもいくつもの遺伝子の変化を持っています。遺伝子の種類によって病気として現れない場合が多いのです。

 遺伝子の変化は精子や卵子を作る細胞分裂の時におこり、多くは突然変異です。受精の時から変化が起こっているので、妊娠中の過労や薬剤等は関係しません。第1子がCSの場合、第2子もCSに罹患する確率は1%程度です。これは性腺モザイクのために、一般の頻度より少し高くなります。他の先天異常症候群の確率は一般とほぼ同じです。ただし、CSを持つ方が成長して結婚し、子どもをもうけた場合、50%の確率でCSの子どもが生まれます。

(3)CHARGE症候群の有病率

国内のある地域で主要な遺伝性疾患の患者数との比較という方法でCS患者数の推測を試みたところ、CSは2-3万人に1人程度の有病率と判明しました。従って、日本では年間30人から50人のCSの新生児が誕生していると推測されます。しかし、日本でCSの患者会に入会している家族は60例程度です。CSとわからずに単に「多発先天異常」と診断されている患者が多数存在することが予想されます。

外国でもCSの有病率に関する報告は多くありません。Issekutzらは、カナダで出生8,500人に1人の有病率を報告し、欧米では1万人に1人程度といわれています。CSは多くの例が新生突然変異なので、人種間での有病率はあまりかわらないはずです。

男女の有病率は1:1です。しかし、男児の方が小陰茎など外性器の特徴がわかりやすいので診断される機会が多いです。

(4)哺乳、栄養、身体発育

出生時身長・体重は標準範囲ですが、その後成長発育が遅れます。哺乳摂食に問題を持つ児が多いです。筋緊張低下による吸啜力不足、口蓋・咽頭・喉頭・食道の協調運動不全、顔面神経麻痺、口唇口蓋裂や食道閉鎖などの形態異常、胃食道逆流症など多要因が影響します。新生児科、小児科、小児外科、耳鼻咽喉科、口腔外科などで必要な検査や治療を行います。消化器系の問題は次の項目で記載します。

 身長、体重、頭囲について、定期的な計測を行います。CSではほとんどの児で低身長がみられます。小柄でもその児なりに成長しているか、成長曲線をチェックします。身長のSD値が低下し、伸び率が少ない場合には、成長ホルモン(GH)分泌不全を考慮します。骨年齢やGH分泌能の検査をします。身長が-2.5SD以下でGH分泌障害が認められた場合などはGH治療の適応になります。低血糖があるような例では治療を急ぎます。GH治療中は側彎に注意します。ただし、CSの児に対するGH補充の長期的な効果、副作用などについては、未だ十分なデータがありません。

 性腺機能低下のため、思春期発来が遅れると骨端線が閉じず、10歳代後半でも身長増加が続く例があります。

(5)呼吸、循環器、消化器系

出生直後から多くの集中的な医療処置が必要となる場合があります。CSを疑がった新生児では、呼吸、循環器、嚥下機能の早急な精査が必要です。後鼻孔閉鎖、先天性心疾患、先天性食道閉鎖症などがあれば、新生児集中治療室での治療や外科手術が行われます。食道閉鎖・気管食道?の診断が遅れると、誤嚥をおこして予後を悪くします。呼吸障害が強ければ、気管内挿管して人工呼吸器を使う場合もあります。一部のCSは新生児期ないし乳児期早期に予後不良の経過をとることもあります。チアノーゼ型の先天性心疾患、両側性後鼻孔閉鎖、気管食道瘻の合併は予後を厳しくします。

1   呼吸器系 

後鼻孔閉鎖・狭窄とは、鼻の奥から咽頭にぬける部分に先天的な閉鎖や狭窄がある状態です。後鼻孔閉鎖はCSの6個の主要症状に含まれていますが、実際にはそれほど合併率は高くないようです。

新生児は鼻呼吸をするので、両側性の場合は呼吸ができず、チアノーゼ、呼吸障害が出現します。呼吸障害があれば、後鼻孔開放手術を行います。片側性の後鼻孔閉鎖では、乳児期になって喘鳴、鼻汁、哺乳困難になり診断されることもあります。片方の鼻孔から常に鼻汁がでていることから気づく場合もあります。当然、経鼻チューブは挿入困難です。

CSの20%で口唇裂・口蓋裂を合併します。口蓋裂がある場合には、後鼻孔は閉鎖してないことが多いです。口唇裂や口蓋裂の治療は、CS以外の例と同様に実施します。

CSでは喉頭や気管の異常が多く認められます。喉頭軟化症、声門下狭窄、喉頭裂、喉頭ひだ、気管軟化症、気管食道?などに注意が必要です。これらの合併症は生命に直接影響する可能性があります。

嚥下障害による誤嚥を合併する場合などは呼吸管理が難しく、気管切開が必要になることがあります。CSでは全身麻酔で手術を行ったあとで気道系の問題が生じやすく、術後管理に注意が必要です。

2   循環器系

先天性心疾患は、CSの70-80%に認めます。CSに特徴的な心疾患はありませんが、ファロー四徴症、両大血管右室起始症(DORV)、心房中隔欠損症 (ASD)、心室中隔欠損症(VSD)、動脈管開存症(PDA)などが多いです。血管輪や鎖骨下動脈走行異常にも注意が必要です。CSを疑った場合、小児 循環器の専門医による超音波検査など詳しい検査をうける必要があります。合併する心疾患のタイプに応じて、内科的あるいは外科的な治療を行います。心臓手 術については、CS以外の児と同様に実施可能ですが、呼吸循環器系の細かな管理が必要です。術後も定期的な循環器科のフォローを行います。

3 消化器系

先天性食道閉鎖症は、食道と胃の間が途切れている状態で、CSで20%程度にみられます。また食道と気管との間が気管食道瘻でつながっていることが多いので、瘻孔を閉じて上下の食道を繋ぐ手術が必要です。つなぐ手術を受けるまでの間、胃にチューブを挿入することがあります。気管食道瘻があると、ミルクが食道から肺に入って、誤嚥性肺炎を起こす可能性があります。無理に経口摂取をすすめると、危険です。

CSでは第Ⅸ、第Ⅹ脳神経の支配領域の問題が摂食嚥下機能に影響します。哺乳障害が強い場合は、嚥下障害や胃食道逆流がないかどうか、食道pHモニター、嚥下機能の造影検査、内視鏡などで検査します。経口摂取がすすまない場合は、経鼻チューブ栄養を行います。摂食障害は、2~3歳ごろまでに徐々に改善することもありますが、数年以上にわたってチューブ栄養が必要なことも少なくありません。胃瘻手術が必要になることもあります。チューブ栄養の場合、ミルク以外に高カロリーの栄養補助剤も用いられます。胃食道逆流症がある場合、制酸剤の投与や噴門形成術を行うこともあります。

 

(6)発達・神経系

「首がすわる」「座る」「這う」「歩く」など、運動発達は乳児期初期から遅れます。筋緊張低下や視力障害が原因です。乳幼児期には運動発達遅滞が顕著です。歩き始めは3歳頃になる例が多いようですが、重症例ではさらに時間がかかります。

難聴は言語発達に、視力障害は運動発達に影響します。聴力・視力の重複障害の場合は影響がさらに強くなります。精神発達遅滞の程度は様々で、重度の例から、成長とともに発達がのびて知的障害を伴わない場合もあります。米国では大学を卒業したCS患者もいることがわかっています。長期フォローアップによるCSの発達状況の報告はまだ少ないですが、療育や教育の工夫で能力を伸ばせる可能性があります。

心臓や消化管の合併症で繰り返して手術をうけ、長期入院になった場合も発達に影響します。両側性の後鼻孔閉鎖例、特に低酸素状態が続いた場合や、小頭症や中枢神経奇形を伴う例、両側性の広範囲にわたるコロボーマによる弱視例では、精神発達への影響がみられる可能性が高くなります。チアノーゼ型先天性心疾患と後鼻孔閉鎖の合併は生命予後に関連しますが、発達遅滞が重度であると予測できるわけではありません。

視力障害・聴力障害の合併が多いので、一般的な発達心理テストでの評価が困難です。新版K式発達テストやWISC検査は、視聴覚に問題がないことが前提で実施される検査です。従って、発達テストの際には、保護者からの問診を行うなど、補完的な評価も必要になります。他児と同様な評価だけでは、発達状況を過小評価される可能性があります。

 発達には様々な要素が影響します。脳の構造異常や感覚器の重複障害の重症度などの個々の状況に加えて、医療的管理や哺乳栄養状態も影響します。聴力・視力・運動・摂食能力・発語について状況を把握し、適切な療育訓練を行います。補聴器の装着・言語聴覚訓練・視覚訓練など専門家チーム(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士・臨床心理士)で対応することが望ましいです。

 強迫行動(同じことを繰り返してするなど)、自閉症的傾向(人との関わりが持つにくい、こだわりが強い、一人遊びが多いなど)、注意欠陥多動症(じっとできず動き回る、集中力が短いなど)、自傷行為(指を噛む、自分の眼を押すなど)などの行動を合併する報告があります。行動をよく観察し、心理面を評価することが必要です。

 中枢神経の異常として、無嗅脳症、全前脳胞症、脳梁低形成などがみられることがあります。てんかん合併例があるので、てんかんを疑えば脳波、頭部MRIなどを調べます。てんかんの治療、薬剤選択はCS以外の場合と変わりません。

(7)眼科合併症と視機能

CSでは早期の眼科診察は必須といえます。一般的には、多発先天異常の新生児で、コロボーマがあれば、CSを鑑別する必要があります。

コロボーマとは、虹彩、網膜、視神経乳頭、脈絡膜など、眼の内部構造の一部が欠けている状態です。胎児期には開いている部分の閉鎖が完了しないためです。コロボーマはCSの80-90%にみられます。両側性で、かつ左右差を認めることが多いです。まれに虹彩のみのコロボーマの場合があります。眼瞼の部分的欠損は稀です。視力低下、視野欠損、網膜剥離、視神経萎縮なども認めます。視覚障害はコロボーマの大きさ、位置により、程度はさまざまです。あまり影響のない例から、明暗が区別される程度の重症例まであります。眼球が小さい、小眼球症のことがあります。その場合、眼球の大きさに左右差がみられます。先天性緑内障の例もあります。

 眼振(水平方向・垂直方向・回転性)も多いです。眼振は、眼底のコロボーマや視神経の状態によります。鼻涙管閉塞・狭窄の場合、眼脂が多かったり、涙があふれやすかったりします。弱視・斜視・屈折異常などがみられることがあります。眼瞼が下がってみえることがありますが、真の眼瞼下垂は少なく、小眼球のために下垂様に見える場合が多いようです。視力の成熟が遅いこともあります。

 視野の問題から、仰向け姿勢で背這いをすることがあります。頭部を横むきにする、顎をあげるなど、各々の児がみやすい姿勢を工夫することがあります。眩明(しゅうめい:まぶしさ)を訴えることもあります。

 視機能評価は教育面で重要です。視力と聴力の問題を合併しているのがCSの特徴です。斜視に対してはアイパッチや外科処置が必要です。視力や視野に問題のある場合は、視能訓練が大切です。正しい眼鏡使用が必要です。眩明が強い場合は、サングラスやひさし帽で遮光します。顔面神経麻痺で眼が閉じにくい場合は人工涙液で角膜傷害を防止します。

(8)耳鼻咽喉科関連合併症、聴力障害

ほとんどのCSに耳介奇形と聴力障害(難聴)が認められます。特徴的な耳介の変形(耳介低位、耳介非対称、小耳朶、耳介後方回転、カップ状耳介など)があり、CSを多く経験している医師は耳介の形だけでCSを疑うこともあります。多くの場合、耳介の形が左右非対称です。外耳道狭窄、耳管機能不全、蝸牛・三半規管の形態異常も多いです。CSでは中耳・内耳のCT検査が必要です。耳小骨の奇形・蝸牛や前庭器官の形成不全、三半規管形成不全・あぶみ骨筋不全・卵円窓不全・顔面神経の走行異常などが見つかります。蝸牛や三半規管の形成不全は、CSを疑う根拠ともなります。

 CSでは片側性ないし両側性の顔面神経麻痺がみられることがあります。両側性の場合、表情の変化が乏しくなります。

 聴力障害(難聴)の程度は中程度から重度まで多様です。感音性難聴は内耳(蝸牛)の形成不全や聴神経が低形成のことが原因です。軽度から重症までみられます。伝音性難聴は、耳小骨奇形や中耳の滲出液によるものです。耳小骨欠損は主に低周波領域で、中耳炎では高周波領域が影響をうけます。滲出性中耳炎は年長まで続く場合も多いです。慢性中耳炎に対してはチュービングを行います。早期にチュービングを行った方が効果があるといわれています。CSでは伝音性難聴・感音性難聴の合併例が多いです。CSでは早期からの積極的な聴力検査・鼓膜精査が必要です。聴力障害の程度が悪化する例もあるので、定期的な聴力のフォローが必要です。 

2歳までの聞こえが言語発達に重要なので、早期から補聴器による聴覚刺激が必要です。ただし、CSでは耳孔が狭く、耳介が柔らかく変形しているので補聴器を工夫しないと装着しにくい場合があります。

 言語聴覚士、聴覚障害教育の専門家などと難聴へのリハビリテーション・療育が必要です。サイン言語・言語療法も平行して続けます。視覚聴覚重複障害に対する適切な療育を早期から始めることが重要です。

 人工内耳治療は、蝸牛の形態、発達などの慎重な判断の下で我が国でも行われており、成功例が報告されています。人工内耳専門の耳鼻咽喉科で手術を行ったあと、長期の訓練が必要です。

 CSでは嗅神経が低形成のことがあります。頭部MRIで診断可能です。嗅覚障害になります。臭いがわかりにくいので、日常生活に支障が出ることがあります。嗅覚の検査はある程度年長にならないと困難です。嗅覚障害に対しては有効な治療はありません。

(9)腎泌尿器系

腎泌尿器系の形態異常(腎異形成、馬蹄腎、水腎症、膀胱尿管逆流症など)もあり、腎機能不全が25%にみられます。超音波による腎尿路のスクリーニングで腎形態異常や膀胱尿管逆流を検査します。

(10)内分泌系

低ゴナドトロピン性性腺機能低下症となります。脳下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン:LHとFSH)が低値です。このため、男児では小陰茎、停留精巣となります。尿道下裂は少ないです。小陰茎と停留精巣があれば下垂体機能精査やその他のホルモンも精査します。男児で明らかな小陰茎の場合は男性ホルモン投与などの治療の適応が生じます。1歳で精巣が降りてこなければ手術します。

女児では小陰唇が低形成です。子宮や膣の内腔が発達していないことがあります。思春期になってから二次性徴の遅れや、欠如がみられます。原発性無月経のことがあります。やはり下垂体ホルモン(ゴナドトロピン)分泌不全によります。

男女ともに3歳前に下垂体ホルモンの分泌を調べる必要があります。特に甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌不全があれば治療が必要です。甲状腺機能低下症は知的発達に影響するので、甲状腺ホルモンを服用します。その後、必要に応じて成長ホルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌を検査します。

 CSでは二次性徴は遅れる傾向にあります。女児13歳、男児14歳で思春期発来の徴候がなければ、中枢性の性腺機能低下症の可能性を考慮して、骨年齢や視床下部-下垂体-性腺機能の精査が必要です。性腺機能低下症が明確であれば、治療(男児はテストステロン療法、女児も女性ホルモン療法)が必要です。思春期を誘発させて維持することが目標となります。性ホルモンの不足は骨粗鬆症と関連します。各児の状況をみながら治療が開始されます。CSの妊孕性については詳細な報告がありません。

(11)整形外科

多指趾症などみられることもあります。まれに指趾の一部が欠損している例もあります。側彎の報告もあり、6-7歳ごろより発症することが多いといわれています。脊椎のレントゲン検査を行って診断します。CSでは、ホッケースティックサインといって、手のひらの掌紋の特徴があり、診断の参考になることがあります。太い掌紋は3本ありますが、一番上の紋の先端が示指と中指の間の指間まで伸びている状態です。

(12)脳神経と症状の対応

 脳や脳幹からでる神経を「脳神経」と言います。12対あります。CSの場合、一部の脳神経の形成不全、機能障害が様々な症状の原因です。

 摂食嚥下障害や顔面非対称の原因にもなります。顔面神経麻痺の存在する場合は、感音性難聴を合併する可能性が高いようです。

番号

名称

主な働き

CHARGE症候群の症状

I

嗅神経

嗅覚

嗅覚障害

II

視神経

視覚

視力障害

III

動眼神経

眼球運動

 

IV

滑車神経

眼球運動(上斜筋)

 

V

三叉神経

顔面・鼻・口・歯の知覚、咀嚼運動

 

VI

外転神経

眼球運動(外直筋)

 

VII

顔面神経

表情筋の運動、前2/3の味覚、

涙腺や唾液腺の分泌

顔面神経麻痺

VIII

内耳神経

聴覚、平衡覚

聴力障害 平衡感覚障害

IX

舌咽神経

舌後1/3の知覚・味覚、

唾液腺の分泌

摂食嚥下障害

X

迷走神経

咽頭の知覚・運動、

頚胸腹部の臓器を支配

摂食嚥下障害

XI

副神経

肩や頸部の運動

(僧帽筋、胸鎖乳突筋)

 

XII

舌下神経

舌の運動

 

 

(13)医療費公費負担や福祉制度

 CSという病名だけでは、特別な公費の制度は受けられませんが、それぞれの対象となる合併症をお持ちの場合は、以下の医療費助成制度が受けられます。手続き方法などについては、医療機関の相談窓口や各自治体の役所へご相談ください。

①公費負担制度(医療機関窓口での支払いが直接免除されます)

1)育成医療(自立支援医療)

先天性心疾患や食道閉鎖症など、手術が必要な疾患をお持ちの場合、対象になります。

2)小児慢性特定疾患治療研究事業

 先天性心疾患内科治療(入院1ヶ月以上)、成長ホルモン分泌不全、甲状腺機能低下症、性腺機能低下症などが対象になります。

②公費以外の助成制度(窓口支払いの一部または全部が払い戻されます)

1)高額医療費制度

2)重症心身障害児医療費助成金制度

(下記の身障者手帳/療育手帳が必要です)

医療福祉の制度、障害者手帳について   

①身体障害者手帳

 身体に障害のある方が対象(視覚・聴覚・平衡機能・音声言語機能・咀嚼機能・肢体・心臓機能・腎臓機能・膀胱または直腸機能・小腸機能・HIV感染による免疫機能)

②療育手帳(地域によって名称が異なることあります)

 知的障害のある方が対象(児童相談所または知的障害者更生相談所で判定)

参考文献 一覧

1)川目裕:CHARGE症候群,小児内科37:1333-1338,2005

2)西恵理子・他:CHARGE症候群,小児の症候群,小児科診療72,2009

3)CHARGE Syndrome : Management of Genetic Syndrome,  3rd ed,Willey-Liss,New Jersey,pp157-168,2010

4)Gene Reviews: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/GeneTests/?db=GeneTests

注)筆者自身の個人的経験、見解も含まれます。

 

 

新生児期 乳児期  健康管理ガイドライン

 

 

新生児期

乳児期

総合的

総合診察・遺伝学的検査

(染色体・遺伝子検査)

遺伝カウンセリング実施

総合診察・身体計測

遺伝学的検査

発達・神経

筋緊張の評価

運動発達評価

脳神経検査・顔面筋精査

家族支援

精神運動発達評価

理学療法実施

 

家族支援

心臓・循環器

心エコー・心電図・胸部

レントゲン

先天性心疾患精査・治療

先天性心疾患フォロー

 

RSウィルス予防

消化器

 

呼吸器

哺乳力評価・レントゲン

嚥下障害の評価管理

食道閉鎖・気管食道瘻

気道検査・呼吸状態管理

胃食道逆流症管理

経口・経管栄養管理

 

呼吸管理

耳鼻咽喉科

聴力検査(ABRなど)

後鼻孔閉鎖・狭窄確認

顔面神経麻痺

耳介の形態(左右比較)

内耳・中耳検査(CT)

聴力検査・補聴器

後鼻孔閉鎖・狭窄

顔面神経麻痺

耳介の形態(左右比較)

定期健診

眼科

 

虹彩・眼底検査

小眼球など精査

虹彩・眼底検査

眼位

泌尿器

内分泌

外性器所見(精巣 陰茎)

腎エコー

甲状腺機能

外性器所見(精巣 陰茎)

腎エコー

整形外科

 

筋骨格系評価

 

歯科・口腔

口唇・口蓋検査

哺乳力評価

口唇裂修復術

生歯状態確認

幼児期 学童期 健康管理ガイドライン

 

 

幼児期

学童期以降

総合的

総合診察

身体発育評価

家族支援 療育機関と連携

総合診察

身体発育評価

家族支援 学校と連携

発達・神経

就学準備

心理発達テスト

言語聴覚訓練

てんかんに注意

就学相談・支援教育

心理発達テスト

言語聴覚訓練

てんかんに注意

心臓・循環器

先天性心疾患フォロー

血圧測定

循環器定期健診

血圧測定

消化器

呼吸器

 

胃食道逆流症管理

経口・経管栄養管理

摂食嚥下訓練

経口・経管栄養管理

 

 

耳鼻咽喉科

定期的聴力検査

補聴器・人工内耳

中耳炎治療

言語聴覚訓練

定期的聴力検査

補聴器・人工内耳

中耳炎治療

言語聴覚訓練

 

視力検査・視能訓練

斜視 屈折異常

定期的眼科検診

視力検査・視能訓練

斜視 屈折異常

定期的眼科検診

泌尿器

 

内分泌

定期健診/検尿

内分泌検査

成長評価

成長ホルモン測定

骨年齢検査

定期健診/検尿

下垂体ホルモン

性ホルモン測定

思春期遅延評価

必要時 性ホルモン補充

整形外科

 

筋骨格系検査

側彎評価

理学療法 作業療法

筋骨格系検査

側彎評価

理学療法 作業療法

歯科・口腔

定期的歯科検診

う歯予防

定期的歯科検診

う歯予防

必要に応じ矯正歯科